ヘリコプターはどのくらい危険なのか?
- wix rbra
- 8月2日
- 読了時間: 6分
影本 賢治
「どれだけ待てばヘリコプターは、あの轟くような音を立てて、あの鉄条網の中に降り立つのでしょうか。」
戯曲「よそのくに」(野村 勇)

災害救助、報道取材、医療輸送、そして自衛隊の任務 -ヘリコプターは私たちの生活に欠かせない乗り物です。その一方で、事故が起きることも少なくなく、多くの人が「ヘリコプターは危険」というイメージを持っているのではないでしょうか。
今回は、ヘリコプターの危険度を他の乗り物と数値的に比べることで、その実態を明らかにしてみようと思います。
ヘリコプターの危険性を他の乗り物と比べるのは難しい
実は、ヘリコプターと他の乗り物の危険性を比べるのは、とても難しいことです。
まず、それぞれの乗り物で、安全性を測る「ものさし」が違います。自動車や旅客列車などは「何キロ走ったら事故が何件起きるか」で危険度を測ります。移動距離が長ければ長いほど、事故に遭う可能性が高くなると考えるのが自然だからです。これに対し、旅客機やヘリコプターは「何時間飛んだら事故が何件起きるか」で測ります。航空機の事故は離陸や着陸のときに多く、移動距離を使うと長距離を飛行する航空機が俄然有利になってしまうからです。
さらに厄介なのは、同じ乗り物でも運用の仕方によって安全性が大きく変わることです。アメリカの統計を見ると、個人所有のヘリコプターは、事故全体の25%しか占めないのに、死亡事故の40%以上を占めています。ドクターヘリなどのプロが操縦するヘリコプターは、悪天候や夜間など個人所有のものよりも厳しい条件で飛ぶことが多いにもかかわらず、死亡事故は多くありません。「ヘリコプターだから、このくらい危ない」とは一律に決めつけられないのです。
強引に比較してみると他の乗り物とは桁違いに危険
しかし、ヘリコプターの危険性を明確にするためには、他の乗り物と比較するのが一番です。このため、強引に同一の条件を設定し、統計的な比較を行ってみました。下の表は、旅客機、旅客列車、路線バス、タクシー、自家用車、オートバイおよびヘリコプターについて、生成AIを使って日本国内の2005年から2024年までの20年間のデータを収集し、「東京-大阪間を移動したときに、死亡事故に遭う可能性」を計算したものです。その結果、「ヘリコプターは、旅客列車よりも、660倍危険だ」ということが分かりました。
対象とする事故を、死亡事故に限定したのは、「そもそも事故って何?」という定義がバラバラなためです。また、「本当に危険なのは死ぬことである」とも考えました。ただし、オートバイの場合は死亡事故に遭えば間違いなく自分が死にますが、ヘリコプターなどは死亡事故に遭っても自分は生き残る可能性があります。この比較では、そのことは考慮されていません。
データを2005年から2024年までのものとしたのは、2005年のJR福知山線脱線事故を含めないと旅客列車の死亡事故率が計算できないからです。また、旅客機のデータには、2024年の羽田空港地上衝突事故を含めています。旅客機の乗客に死者はありませんでしたが、これを含めないと死亡事故率が計算できないからです。
移動区間は、東京-大阪間としてみました。航空機は515km、地上の交通手段は553kmの移動距離となります。この区間を選んだのは、これらの乗り物のいずれでも移動可能な距離であり、どなたにもイメージが湧きやすいと思ったからです。
前述の「ものさし」の違いの問題は、それぞれの航空機の概略の巡航速度で飛行時間を飛行距離に換算することで無理やり解決しています。一方、運用の仕方による違いは、タクシーや路線バスのように区分できるものもありますが、それ以外は無視しています。特に、日本最大のヘリコプター・ユーザーは自衛隊ですが、データが不十分なので対象にしていません。
いずれにしてもこの比較は、異なる測定基準(飛行時間vs移動距離)を強引に統一したものであり、データの出所も、条件も、精度もバラバラですし、計算にも極めて大雑把な推定が加えられています。専門的に見れば「ツッコミどころ満載」な比較ですが、なかなか面白い結果が得られたと思っています。

低リスクのグループは、旅客機と旅客列車です。死亡事故に遭う確率は1000万分の1に近く、間違いなく「最も安全な移動手段」だと言えます。これは決して偶然ではなく、高度な安全システムと厳しい管理の結果だと思われます。
中リスクのグループは、私たちが日常使う車やバス、タクシーです。数10万から数100万分の1という数字は、低リスクのグループより格段に危険であるものの、社会的に受け入れられているレベルです。
高リスクのグループは、数万分の1という最も高い危険度を示します。オートバイはライダーの体を守るものがない構造上の問題、ヘリコプターは厳しい環境での使用や操縦の難しさなどが反映されていると思われます。
この分析から分かることは、ヘリコプターは確かに危険な乗り物だということです。ただし、東京から大阪まで毎日ヘリコプターで往復したとしても、死亡事故に遭う確率は17年間に1回程度でしかありません。
オスプレイとの差はほとんど無いに等しい

何かと安全性が議論されることの多いオスプレイについても、同じ要領で計算してみました。その結果は「7.9万分の1」で、ヘリコプターやオートバイと同じ「高リスク」のグループに属することになりました。ただし、国内でのデータは得られませんでしたので、米軍が公表しているデータを利用しています。
オスプレイがヘリコプターよりも危険だとか、そうでないとかということがよく議論になります。今回の比較ではオスプレイの方がヘリコプターよりも事故率が低いという結果になりましたが、2005年以前のオスプレイ開発段階のデータを含めると反対の結果になることも確認しています。つまり、条件次第でどちらの結論でも出せる程度の差であり、あまり変わらないと言ってよいでしょう。
結論:問題なのは技量と安全管理
ヘリコプターは確かに危険を伴う航空機です。ただし、これをもって直ちにヘリコプターに欠陥があるとは言えません。オートバイと同じように、特別な能力と引き換えにもたらされる、一般に許容されるレベルのリスクです。そこで重要になるのは「使うべきかどうか」ではなく「どう使うか」です。ヘリコプターの安全性には、機体だけではなく操縦士や整備員の技量と組織の安全管理も大きく影響するのです。
北朝鮮拉致被害者の救出には、ヘリコプターやオスプレイの特別な能力が不可欠です。自衛隊が、その能力の発揮を確実なものにするため、日夜、操縦士の技量向上と安全管理の徹底に努めているのは間違いがありません。
影本 賢治:昭和37年北海道旭川市生まれの元陸上自衛官。昭和53年に少年工科学校第24期生として入隊し、平成29年に定年退職するまで、主として航空機の補給整備に関する業務に携わっていた。(本人HPより)
ジャスティン・ウィリアムソン (著), Justin W. Williamson (著), 影本 賢治 (翻訳)イーグル・クロー作戦: 在イラン・アメリカ大使館人質事件の解決を目指した果敢な挑戦
日本にはアメリカと同じことはできません。しかし、だからと言って何もしなくていいわけがありません。この問題を解決に導くためには、日本人ひとりひとりが自分にできることを実行することが何よりも大切だと思います。私にできることは、この本を翻訳することでした。そこには、アメリカ人の自国民の救出に向けた決意と覚悟が書き表されていました。本書が、拉致問題に対する日本人の意識にわずかでも変化をもたらすことを願ってやみません。(訳者あとがきより)
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