オスプレイはヘリコプターなのか?
- wix rbra
- 5月3日
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更新日:5 日前
影本賢治
「どれだけ待てばヘリコプターは、あの轟くような音を立てて、あの鉄条網の中に降り立つのでしょうか。」—戯曲「よそのくに」(野村 勇)
小学校の時に受けた理科のテストに「花の名前」に関するものがありました。いくつかの花の絵が描かれていて、その名前を記入するという問題でしたが、情けないことに「チューリップ」しか答えられませんでした。よく分からないものは、どれもこれもが同じに見えるものです。(そういえば、昨年参加した「オスプレイ反対集会」の参加者にもオスプレイとヘリコプターを見分けられない人がいました。)V-22オスプレイとは何なのか、改めて解説してみたいと思います。

ヘリコプターなのか?
まず結論を言うと、V-22オスプレイはヘリコプターではありません。
FAA(米国連邦航空局)の定義によれば、ヘリコプターとは主にエンジン駆動のローターで前進などの水平運動を行う回転翼機です。オスプレイは主に(ローターを前に倒した)プロペラで前進するので、ヘリコプターではないということになります。ICAO(国際民間航空機関)もFAAと同様の定義をしています。

ただし、オスプレイも、ヘリコプター・モードで飛行しているときは、ローターで前進しますので、「ヘリコプターのように飛行できる航空機」ではあります。

なお、国土交通省は回転翼航空機を「ヘリコプター、ジャイロプレーン、ジャイロダイン等、その重要な揚力を1個以上の回転翼から得る重航空機」と定義していますが、ヘリコプター自体の定義は不明確です。このため、ここから先はFAAの定義に基づいて話を進めてゆきたいと思います。
オスプレイとは何なのか?
V-22オスプレイとは、ヘリコプターではなければ、一体何なのでしょうか。
ティルトローターである
まず、V-22オスプレイはティルトローターです。ティルトローターとは、オスプレイのようにローターとプロペラの役割を兼ね備えた回転翼を垂直方向から水平方向まで傾けることで、ヘリコプターのようにも固定翼機のようにも飛行できる航空機のことをいいます。


パワード・リフトである
また、V-22オスプレイはパワード・リフトでもあります。
パワード・リフトとは、ティルトローターのように、垂直離着陸ができ、水平飛行での揚力を固定翼で得る航空機のことをいいます。
ティルトローター以外にも、「推力偏向スラスト」や「リフト・ファン」などもパワード・リフトに含まれます。 推力偏向スラストとは、AV-8ハリアーのようにエンジンからの推力を下向きに向けることで揚力を得る方式です。リフト・ファンとは、F-35BライトニングIIのように胴体または翼に組み込まれた大型のファンで揚力を得る方式です。


なお、国土交通省はパワード・リフトに類似した分類として、「垂直離着陸飛行機」(滑走をせずに離陸し、又は着陸することができる飛行機)を設けています。
VTOL(垂直離着陸機)である
さらに、V-22オスプレイはVTOL(ヴイトール、Vertical Take-Off and Landing、垂直離着陸機)でもあります。
VTOLとは、滑走路がなくても垂直離陸・着陸できる機体のことです。 パワード・リフトだけではなく、ヘリコプターもVTOLです。FAAの定義によれば、VTOLとは垂直離着陸が可能で、短い滑走路などから離着陸できる航空機であり、明らかにヘリコプターを含んでいます。
ただし、日本では一般的にヘリコプターをVTOLに含めないことが多いようです。これはVTOLという言葉が固定翼機の垂直離着陸能力に関して使われることが多いためだと考えられます。詳しくはこちらの記事を参照してください。
ヘリコプターはVTOL(垂直離着陸機)なのか (Aviation Assets)
以上をまとめると、「V-22オスプレイは、ヘリコプターと同じVTOL(垂直離着陸機)であるが、ヘリコプターとは違うパワード・リフトであり、その中のティルトローターである」ということになります。

オスプレイはヘリコプターと固定翼機のどちらに近いのか?
ここまで述べたとおりV-22オスプレイはヘリコプターでも固定翼機でもないわけですが、次のような理由から、どちらかと言えば固定翼機に近いと筆者は思っています。
固定翼形態での飛行が多い
V-22オスプレイは、エアプレーン・モードでもヘリコプター・モードのいずれでも飛行できますが、その大部分はエアプレーン・モードでの飛行です。もちろん、任務によって大きく異なりますが、英語版Wikipediaには75%がエアプレーン・モードでの飛行であるとの記述があります。
ただし、その比率は、筆者の感覚としてはもっと多いと思います。実際に筆者が取材のために陸自V-22に搭乗した際には、離陸後の2分間と着陸前の6分間だけがヘリコプター・モードで、それ以外(1時間以上)はエアプレーン・モードでの飛行でした。ちなみに、ヘリコプター・モードとエアプレーン・モードの間にはコンバージョン・モードと呼ばれる中間段階がありますが、その時間はわずか10秒程度でした。

操縦操作が固定翼機に近い
V-22オスプレイのスラスト(推力)・コントロール・レバー(TCL)は、固定翼機のスロットルとヘリコプターのコレクティブの両方の機能を兼ね備えています。スラスト・コントロール・レバーの操作方向は固定翼機のスロットルと同じで、前方に押すと推力が増加し、後方に引くと推力が減少するようになっています。これは、ヘリコプターのコレクティブとは反対です。

開発初期段階のオスプレイのスラスト・コントロール・レバーは、ヘリコプターと同じ方向に操作するようになっていました。オスプレイが主に固定翼機として運用されることを前提とし、固定翼機パイロットの操作習慣や感覚との整合性を重視した結果、固定翼機と同じ方向に改められました。
ちなみに、現在開発中のV-280バローも固定翼機と同じ方向です(今後変更されるかもしれません)。ただし、AW-609はヘリコプターと同じ方向になっています。
オスプレイの性能を活かせる任務とは
アメリカ陸軍がUH-60ブラック・ホークの後継機にティルトローターであるV-280を選定した最大の理由は、今後予想される太平洋の島々での戦いにおいては、長距離を高速で飛行できる垂直離着陸機のほうがヘリコプターよりも有利と判断されたからだといいます。
島国である日本の防衛においても、同様のことが言えるのは当然です。また、北朝鮮の拉致被害者の救出にあたっても、その存在が欠かせません。この素晴らしい性能を有する機体をどのように活用するか、自衛隊はもうすでに準備を整えているはずです。
影本 賢治:昭和37年北海道旭川市生まれの元陸上自衛官。昭和53年に少年工科学校第24期生として入隊し、平成29年に定年退職するまで、主として航空機の補給整備に関する業務に携わっていた。(本人HPより)
ジャスティン・ウィリアムソン (著), Justin W. Williamson (著), 影本 賢治 (翻訳)イーグル・クロー作戦: 在イラン・アメリカ大使館人質事件の解決を目指した果敢な挑戦
日本にはアメリカと同じことはできません。しかし、だからと言って何もしなくていいわけがありません。この問題を解決に導くためには、日本人ひとりひとりが自分にできることを実行することが何よりも大切だと思います。私にできることは、この本を翻訳することでした。そこには、アメリカ人の自国民の救出に向けた決意と覚悟が書き表されていました。本書が、拉致問題に対する日本人の意識にわずかでも変化をもたらすことを願ってやみません。(訳者あとがきより)
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