荒谷卓
このテーマのシミュレーションは、現役時代から取り上げてみたかったものである。
それ自体は、特殊部隊の訓練としてはあまり意味を成さないが、そのようなシミュレーションを政府関係者あるいは政治家に視覚的に伝えることにより、通常の国家としてなすべき対策を促したかったからである。
それ自体が特殊部隊の訓練として意味を成さないというのは、日本における潜入・拉致があまりにも簡単すぎるからである。1コ連隊ぐらいががっちりと固める海岸に潜入して、襲撃や破壊工作等直接行動を取るようなシナリオなら訓練になりうるが、完璧に無防備な日本では、訓練の対象になる要素がみあたらない。つまり、侵入・拉致はそれほど容易なことであり、それにさえ失敗をする特殊部隊ではレベルが低すぎる。
さらには、国内に極めて多数の協力者が存在し、この者達が侵入から拉致・北朝鮮への輸送を担っているのだから、こちらが主であり、潜入してくるのはお客様みたいなものだ。一般的には、スパイと呼ばれる外国への協力者が野放しである以上、不法侵入も拉致もやり放題である。
日本の全ての海岸線を不法侵入から物理的に守ることは困難だが、そうした不法侵入者やそれに対する援助者を殺傷あるいは逮捕できる可能性を示すだけで、状況は一変する。つまり、相手にとっては、リスクがゼロである行為が10%のハイ・リスクを負うことになれば、常にそのリスクをカウントしなければならなくなることから、実行は相当に慎重にならざるを得ない。また、そのためには、より高度な訓練や資器材が必要となりコストがかさむことになる。そうなれば、侵入や拉致のコスト・パフォーマンスを計算しなければならなくなる。
現在は、侵入・拉致あるいはそれに協力する側にとって、リスクも無ければコストもかからない状態だ。失敗しても、全く問題が生ぜず、「次はうまくやろう」といった程度だろう。まずは、この状態を解消しなくてはならない。
また、これまでの拉致に加担した国内の協力者を逮捕できれば、何も北朝鮮側の調査を待たなくとも、拉致の事実を決定付けられる。
政府がやるべきことは、外交上の努力や大々的警備のような大層なことではなく、通常の国家なら何処でも保有している国民の人権を侵害する外国人及び協力者に対する警察当局や自衛隊の領域警備に関する権限の法制化で済むことだ。
拉致問題解決がかくも国民の支持を得ている今の状況で、これに反対を唱える者は外国勢力の傀儡か協力者であることぐらい誰の目にもわかるだろう。
とりあえずは、誰が外国勢力の傀儡で協力者であるのかを国民の目前に浮き彫りにするためにも、あらためて「拉致問題解決のためのスパイ防止法」あるいは「拉致防止のための領域警備法」等国会で審議してもらいたい。
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