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人生で4番目 3

更新日:2018年7月28日

伊藤祐靖


石垣島のホームセンターでリストに従って必要なものを調達して、ホテルの部屋に戻るとまず、特大の国旗の四隅にロープを付けれるようにすることから始めた。四隅に穴をあけ厚手の布を重ねて鳩目(靴ひもを通す穴にあるような環状の金具)を打ち込んだ。

次に、ナイフ3本とマシェット(山刀)1本の刃を起こし、ある細工を始めた。まあ、刺身を作る訳じゃないので、人を切るにしても、ロープを切るにしても、それほど、切れ味というのは必要ない。使い方さえ判っていれば、切れ味が悪いからと...いって逃がしてしまったり、何かを失敗するということはない。そんなことより、実際の作戦行動で使用する刃物に必要なことは、現地で手がかからないことである。

それは、当たり前だが、屋内のように薄く油を敷いた状態を維持できるわけではないからだ。屋外では、風雨に晒され、時には岩と岩の透き間に突き立て、時には血を浴びる。血というものは、舐めてみればすぐ判るが、塩分がかなり含まれている。海水と成分が似かよっているため、血を浴びた刃物はすぐ錆びる。私の使う刃物は、ミンダナオ島の盗賊鍛冶屋(トラックを盗んできて板バネを加工する)に作らせたもので鋼製であるが、ちゃんと細工をしておけば、ヤスリ一本、一日30秒の手入れでこと足りる。

それが終わると、フィンを上陸後にバックパックに括り付けれるように加工した。最後に、国旗に付ける4本のロープと150フィートのパラシュートコードを運びやすく解きやすいようダブルチェーンノットに編んだ。特大の国旗3枚とロープ類を防水パックに入れると20キロ前後の重さになったため、浮力を確保するため空気は全部抜かずに少し残した。

物の準備は、整ったので、次は、頭の準備だ。私は、作戦行動にでる前には最低でも100回シュミレーションをすることにしている。夜明け前の魚釣島沖に漂泊する漁船から静かに入水するところから始めた。フィンの一つが破損した場合、潮の流れを読み間違えて魚釣島に近づけない場合、はぶくらげにまとわりつかれた場合、鮫と遭遇した場合、上陸したら中国人が5人以上いた場合、相手が銃を撃ってきた場合、解決策がすぐに頭に浮かぶ物もあれば、しばらく考えた結果、装備品を増やしたものもあった。どう考えても解決策が浮かばないものもあった。すべてに解決策がある訳ではない。そうなってしまったら、生命の維持から諦めなければならない状況もある。後は、体力の蓄積と温存だ。食べれるだけ食べて、寝れるだけ寝る。漁船の出港時刻まで装備品をまくらに寝ることにした。


つづく(まだまだ)

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