人生で4番目15

伊藤祐靖


「第1桜丸」に戻ると、海上保安官が3名待っていた。

「お名前は?」

「伊藤です」

「魚釣島に上陸されましたね?」...

「はい」

「何時に上陸しましたか?」

「今朝、マルヨンマルマル04:00です」

「は?」

「みんなが飛び込む以前、夜が明ける前に一人で行きました」

「えっ?・・・・・・・・・・・・。それで何をしてたんですか?」

「山頂付近に日の丸を揚げてました」

「は~? どこですか? そんなもんないじゃないですか」

「南斜面ですから、ここからは見えません」

「南は、絶壁ですよ。そこに旗を揚げたんですか?」

「絶壁じゃないと遠くから見えないでしょ、揚げたというか、垂らしましたね」

「??? 何でですか???」

「表札みたいなもんですよ、ひとの家に間違って来ちゃう奴がいると困るでしょ」

「おかしいじゃないですか? 我々は近くに居ましたよ。島に近づいた漁船は居ませんでした。夜が明ける前の海をどのくらい泳いで島に上陸したんですか?」

「400m位です。実際に泳いだのは350ですね、最初の50mは潜ってましたから」

「???潜った??? なぜですか?」

「周りの漁船に見られると騒ぎになると思ったからです」

「え~ こんな鮫の多いところをですか? 本当ですか?」

「本当です」

「え~ あり得ないでしょう。どうやって泳いでいったんですか」

「普通に」

「第一上陸してから、真っ暗な中を登ったんですか?」

「はい」

「どうやって、道もない、真っ暗な山を登るんですか?」

「右脚と左脚を交互に前にだしてね」

「・・・・・・・・・・・・」

海上保安官は私と喋るのに嫌気がさしてきたようで、全身からまともに聞いていないオーラが出ていた。私も段々、真面目に答えているのが面倒になってきた。

「まあ、いいじゃない。あんたらも石垣島に帰るんでしょ。その途中で見えるよ、日の丸が・・・・・・。この島の反対斜面山頂付近にあるからさ、それを見てよ。それから取り調べだか、なんだかしようか?」

「言っておきますが、あくまでも任意での事情聴取ですので・・・・・・」

「あ~そうなの。俺に取っちゃどうでもいいんだよ。鮫が多いから泳げないとか、真っ暗で道がないから登れないとか。そういう女学生みたいな坊ちゃんと喋んの、めんどくせ~んだよ」

色白で小太りの、呉の海上保安大学を出たばかりみたいな若い幹部にちょっときついことを言ってしまった。洋上勤務が殆どないのに洋上勤務が豊富な年上の部下に囲まれて、ドギマギしながら知ったかぶりという背伸びを限界までしている姿は、見ているだけなら微笑ましかったが、実際に接すると妙に腹が立って、きついことを言ってしまった。まあ、若者はそうやって育っていくのものだが、少しの反省と自己嫌悪を感じた。


彼よりは、階級は低いのだろうが実質リーダー的存在のサングラスをかけた海上保安官を見ると、船乗りらしい身のこなしでテキパキと動いていた。自己嫌悪を感じていた私だったが、すっと心が晴れた。「これだよな。こういう人が領海を守っている」上司に失望しながら、政府に絶望しながら、粛々と目的が見えない命令をこなし、そのための訓練を毎日毎日積み重ねている。一色正春氏が公開したビデオの海上保安官、今回の中国人活動家の事件に関わった警察官と海上保安官、どっかで記録的な雨が降ったというニュースを見れば、腰まで水に浸かっている迷彩服が必ず映っている。彼らが本当に望んでいるのは、国民からの感謝でもなければ、暖かい食事、風呂でもない。彼らは、ただその職務を遂行したいだけだ。命令に意志さえ感じられれば、どんなに困難であろうと、危険であろうと、彼らは、自分を奮い立たせて、遂行しようとする。公務員だけではない。この尖閣ツアーで、自分の休暇を使い、月給の半分以上はする参加費を払ってやって来る人に会った。普通の主婦、学校の先生、農業従事者、国家天下を高らかに語るわけでもなく、ただ、歯痒い、海上保安官、警察官ばかりにやらせているのは申し訳ない。国民として義務を果たしたい。と言っていた。

いよいよ、船は南斜面が見える位置まで回り込んできた。私は誰にも悟られないように、山頂付近を見つめていた。


つづく

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