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陸上自衛官の武器科職種OB会講演①

更新日:2018年7月20日

荒谷卓


【特殊作戦群の創設】

陸上自衛隊に29年在職させて頂き、皆様と同じような経験を積んできましたが、ただ一つ特徴があるとすれば、特殊作戦に携わった点です。


平成15年、米軍特殊作戦学校通称「グリーンベレー」に留学しました。とはいっても、学生として教育を受けているだけでは、特殊部隊の立ち上げには用を成さないので、米国に行ってから特殊作戦学校の校長に何度もお願いして、実質上、LOのように、校長室の隣に執務室を頂き、アメリカ軍の特殊作戦がどのような仕組みで運営されているのか、組織の構成、政治との関わり、通常の軍事作戦の教育との違い等を全般的に研修させて頂きました。

それらを持ち帰って部隊の立ち上げ準備に取り掛かりましたが、何せ米国と日本では政軍関係が全く違います。

特殊作戦と通常作戦の違いは、一言で言えば政治との関わり方の違いであり、特殊部隊は、平時からまさに政治機能として運用されているという点です。 

それは米国だけではなく、イギリスのSAS、ドイツのKSK、オーストラリアのSAS等殆どの国が軍事、外交、情報、治安等を包括的に兼ね備えた実力部隊として特殊作戦部隊を運用しています。

例えば、グリーンベレーの平時の指揮は国務長官や当事国の大使の下に置かれ、時にはホワイトハウス直轄になる。期待されるのはまさに政治活動そのもの、アメリカが推し進めるグローバル資本主義をいかに世界に拡張し定着させるかがその目的です。

ブッシュ大統領の時に改定された陸軍の教範の頂点「OPERATONS」では、アメリカの新しい戦略「テロとの戦い」をどの様に認識するかが明記されています。その中では、『グローバル化は、失敗のリスクが大多数の者にもたらされる間に、富の恩恵が少数の者の手に集中され続け、この富の不平等な配分は、しばしば紛争の種である「持つ者と持たない者」の状態を創出する』とあります。

そして、『この富の不平等な配分により、2015年では、世界の人口の約28億人程度が貧窮以下のレベルになるだろう』と見ております。貧窮以下のとは、自力で生きていけない貧しい状態のことです。しかし、この貧窮化した人達を救済するということは考えておりません。むしろ、『世界的な繁栄を共有する』と言う果しえない望みを持つ貧窮は、『過激なイデオロギーを信奉する傾向に向かうだろう。』と予想しています。

つまり、アメリカの進めているグローバル資本主義は、必然的にテロリストを産む。そのテロリストの活動を予防し対処することが「テロとの戦いの本質」なのだといっているわけです。

これは陸軍の教範なので、簡単に書いてありますが、特殊部隊の教範では、もっと具体的に、例えばグローバル化のための政府転覆とか、アメリカにとって望ましい政権の維持とか。そういったことが、非通常戦と呼ばれる特殊作戦の概念区分になっています。ビンラディンの殺害のような作戦は、非通常作戦と言うよりは、直接行動と呼ばれる作戦区分に入ります。

アメリカ側は、当然日本もこういう活動の中に積極的に参加すべきだとの考えです。

しかし、日本にはそのような国民的合意はない。政府にも、そうした意思はない。そんな中で、自衛隊がようやく特殊作戦部隊を創設するというので、米軍側も積極的に支援してくれたのです。

しかし、私個人は、このような特殊作戦の実態を目にして、グローバル資本主義がこのまま進んで行っていいのだろうかと疑念を持ちました。

グローバル資本主義の考えに積極的に追随するということが、本当に日本にとって良い事なのか、そういう疑念を持ったわけです。


帰ってきてから、特殊作戦群の創設に関りましたが、日本の政治環境は、そこまで進んでいません。また、軍事に関る日米関係もそこまで進展していません。世界の軍事作戦がグローバル資本主義の政治経済活動を中心に動いているという認識も、自衛隊にはありませんでした。

したがって、特殊作戦群の立ち上げから、戦力化には非常に難しいものがありました。

結局、日本が目指すべき戦略目標と、政治行政の実態に疑問をもち、平成20年に自衛隊の職を辞する決断をしました。 その時点で、明治神宮の館長に就任することは決まっていませんでした。たまたま、大学の時から通っていたのが、明治神宮の武道場至誠館で、そこの館長にはいろいろお世話になっていたものですから、自分の決心について報告に伺ったところ、後を継いで至誠館の館長になれとのことでした。そうした経緯で退職1年後、館長職を引き継ぎました。(つづく)

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