安保法制論議、拉致被害者救出には一言もない

最終更新: 2018年7月20日

葛城奈海

27年6月25日 産経新聞「直球&曲球」掲載

 「少なくとも数名は帰ってくるのでは」と、日本中の期待を集めた日朝ストックホルム合意から丸1年がたった。結論は周知の通り、政府認定の拉致被害者、特定失踪者の誰ひとりとして帰国は実現していない。再調査のための特別調査委員会を設置したことを評価して、日本は制裁の一部を解除したが、またしても北朝鮮に弄された感は否めない。「最後のチャンス」と、すがるような思いで推移を注視していたご家族の落胆はいかばかりであろう。

 ここへきて、そのご家族の傷に塩をすり込むように思えてならないのが、安保法制論議だ。「切れ目のない法整備」を謳い、11もの法案を並べながら、拉致被害者救出に関しては与党も野党も一言もない。在外邦人の保護については当該国の同意が前提となっているが、北朝鮮が自衛隊による拉致被害者救出に同意するわけもない。

 かつて安倍晋三首相は、「いざとなったら米国に頼むしかない」と語ったが、筆者が予備役ブルーリボンの会で活動を共にしている自衛隊の特殊部隊OBは、「対米協力と同じくらいの熱意を持って、自衛隊による拉致被害者救出を可能とする法的根拠を示せば、自衛隊はその準備に鋭意取り組むだろう」という。にもかかわらず自国民を守ることをいつまでも米国頼みにしていては、独立した国家として情けないではないか。現行法で自衛隊を使えないというなら、今こそ法整備の好機であろう。議員のブルーリボンバッジは、まやかしか。

当会では北朝鮮工作員侵入・拉致シミュレーションを実施したことがあり、筆者はその被害者役を務めた。言葉巧みに注意を逸らされた隙に引き倒され、手足を縛られ、猿轡をはめられ、麻袋をかぶせられた。全身砂だらけになり口の中には血の味がした。何の罪もない国民がある日突然このようにして連れ去られ、以後何十年も意に反した人生を異国で送っているという事実には、どう向き合うのか。

 これからの危機に備えることはもちろん大事だが、既に現存する安全保障問題をこそ、まずは直視してもらいたいものである。

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