予備役ブルーリボンの会
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「試験当日」

最終更新: 2018年7月25日

伊藤祐靖


 試験会場は、私がいる横須賀教育隊から1時間ほどの距離にある第2術科学校であった。そこは、海上自衛隊のエンジン関係の教育をおこなうところである。会場に着くと、何となく似合わないリクルートスーツを着た、バカに色白の髪の長い大学4年生がたくさんいた。今までの人生では、ほとんど見ることのないタイプの集団であった。一見不健康そうに見えるこの人達が軍隊に入ろうとしてるのか~、大丈夫なのかな~、と感じた。向こうもおそらく私を見てこのセーラー服を着てる色黒で健康だけが取り柄みたいな奴はいったい何なんだろうと思っていたことだろう。

 そうこうするうちに、試験官が会場に現れ、私の嫌いな言葉「理系の方」「文系の方」を多用して、試験問題の選択方法を説明し始めた。問題を見てからどっちにするかを決めようとしている私は、ぼんやりと聞いていた。

「そうだ、理系・文系について聞いてみよう」。突然思いついた私は、手を挙げて質問をした。

「あの、理系か文系かわからないんですが」

「何学部をご卒業ですか?」

「それがわからないんです」

「わからない? どちらの大学ですか?」

「日体大です」

「は~、理系・文系のどちらで受験するかは本人の自由で強制するようなものではありませんので、ご自分のお好きなほうで受けてください」

「はい」

会場にいる全員は、私を「変な奴」だと思ってるだろうな~。どんな素性なんだろうな~って思ってるだろうな~。近くに座っている人は、みんな、私と目が合わないように注意深く、こっちを見ている。だいぶ恥ずかしく、しかし、どういうわけだか、卒業した自分の学部を知らない自分が誇らしくもあった。

 「では、今から回答用紙を配ります」

配られて名前を書いた回答用紙を見て、びっくり。

「これがマークシートってやつか・・・・・」

今年からマークシートに変わったのか、よしよし、これなら少なくとも回答はできるな・・・・・・。

「次に問題を配ります。問題にも名前を書いて、指示あるまで伏せておいてください」

「はい、では開始してください」

問題を、理系、文系の順に眺めてみた。予想通りわかる問題は一つもなく問題用紙を閉じた。

 試験会場の全員が必死で問題に取り組んでいる中、たった一人だけ久しぶりの「塗り絵」をしていた。

 物凄い時間をかけて丁寧に丁寧に塗りつぶしていった。

 一人だけ退出可能時間と同時に試験会場を出た。教育隊の前にある飲み屋に寄り、ビールを1本頼んだ。

店のおばさんが「水兵さん、どこに行って来たんだい」

「試験を受けて来たんです」

「へ~何の試験」

「将校になるための試験です」

「偉いんだね~。合格するといいですね」

「ビールもう1本飲みなさいよ、おばさんがごちそうするよ」

 横須賀という土地柄であろう、年配の人は水兵に友好的であった。「将校になるための試験って言うと偉そうだけど、実は『塗り絵』をしてきただけなんだよな~」。ごちそうになったビールを罪悪感を覚えながら飲み終え、教育隊に戻った。

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