人生で4番目 7

最終更新: 2018年7月28日

伊藤祐靖


自然界に溶け込んで、幽体離脱している気分だったのに、肉体が存在しているという現実に引き戻された。そればかりか馬鹿にきつい。口から心臓が出てきそうに苦しくなってきた。この程度の傾斜、植生、背負っている重量で、こんなにきついわけがない。何かがいつもと違うはずだ。ペースか? これは、いつものペース。高低差300m、40kgを背負った時の時速1キロペースだ。このまま行くと、きついとか苦しいとかではなく、あと2時間で確実に潰れる。1時間半で国旗を設置する場所にたどり着いたとしても、崖で作業ができる体力は、残ってないだろう。でも、ここでペースを落としたら、約束の09:00までに灯台へ戻ってこれない。


ペースの変更については30分後に考えることとした。口から心臓が出てきそうな状態での30分は滅入る。しかし、肉体的苦痛なんて時が解決する部分もある。きつい、苦しい、きつい、苦しいと...かわりばんこに思いながら歩数でも数えていれば30分は経過する。その間、頭の中で考えていたことは、こんなにまで苦しい理由だった。傾斜、植生、重量、ペースいずれも決定的な原因ではない。何かを間違えていないか?? それに気付けば、今のペースで登りながらスッとこの苦痛から解放されるかもしれない。 


年齢だ!! 俺は、まもなく48歳なんだ。5年前の現役特殊部隊員の時でさえ、衰えていく身体能力と巧みになっていく身体操作の狭間で生きていた。今、こんなにきついのは、年齢が原因だ……。それは間違いない。でも、その結論に達したところで、ここでは解決策がない。そんな結論、意味がない。他にないのか。


体温だ!! 海水は、大気の25倍体温を奪う。海で体温を奪われ、大量のカロリーを消費している。上陸したら上昇する体温を下げるために大量の汗をかき、水分を失っている。カロリーと水分の短時間での大量消費は、年齢の影響もあり、疲労感を通り越し、私に絶望感を与えた。その状態を脱しようと、コーラを飲んだ。ちなみに、呼吸が乱れることを防ぐため、コーラの炭酸は、あらかじめ抜いてある。


糖分というエネルギーが、指の先まで、脳の奥深くまで染み込んでいくのがわかった。どうして、早めに補給しなかったんだろう。「昔とそれほど変わっていない体力を維持している」と思いたい気持ちが、補給のタイミングを遅らせた。年齢による衰えというものは、実際の衰えより「そんなはずはない」「そう認めたくない」「そう思われたくない」という現実に目を背けようと、潔さを失うことを言うようだ。


つづく(まだまだ)

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